…あなたが私の名前を、学校や会社や職場やネットのあらゆる場所で囁いてくれることで、執筆の機会は広がり、命の蠟燭は少しづつ継ぎ足されていく。
あなたの一声が、私を生かし続けるのだ。ー本書252pより
みなさんこんにちは。
今日は
『年末年始は暇だし、なんか笑える本が読みたいなぁ』という方や、
『ネット上でのマウンティングにはもううんざりだ!何か違った世界はないのか!』と
安息を求めている方におすすめの、
海猫沢めろんさんの
【随筆傑作選 生活】を紹介します。
作者の20年間の作家活動でつづられてきたエッセイをまとめた傑作選となっています。
価格:2750円 |
この本のよみどころ
1.ほぼすべてのエッセイにオチがついている
時系列順に、主に新聞や雑誌・文芸誌に掲載されたエッセイが並んでいます。
ほぼすべてのエッセイにオチがついています。
一行目からぶちかましているものもあれば、
『カッコいいこと言ってるなぁ』『いい事いうなぁ』と油断していたら、
最後に『えぇ…』というオチをつけているものもあり、基本的にどのページにも『クスッ』とできる笑いどころがあります。
カフェや通勤中の電車で読んではいけません。
居間でおせんべいと番茶でもすすりながら、
あるいは眠れない夜に布団からふっと抜け出して、頭を空にして楽しみましょう。
2.『生活』感が強い
2004年から2024年までの20年というと、
思いつくだけでも2度の政権交代やSNSの流行、東日本大震災、そしてコロナの流行とさまざまな出来事がありました。
しかし本エッセイでは一貫して、著者のまわりに起きた出来事が題材になっています。
読んでいると、
「どんなに大事件が起きても、人間の『生活』そのものは変わらずそこにあるのだな」
ということがしみじみとわかります。
小説家や作家というと『世間から遊離した知的で真面目を気取った堅物』というイメージを持っている人もいると思いますが、
本書はそういった(悪い意味での)『気取りやカッコつけ』はありません。
人によっては『あれ、もしかしたら自分とあまり変わらないんじゃないか?』というような印象すら受けるかもしれません。
そういっためろん先生のキャラクターも本書の魅力の一つです。
3.扱われている話題が広く勉強になる
とはいうものの、めろん先生には『明日、機械がヒトになる』という科学ルポの著書もある通り、
広範な知識を持っており、本書でも民俗学から科学まで、いろいろな話題が出てきます。
なんというか、単純に勉強になります。
世の中『頭のいいふりをしているバカ』はありふれていますが(露骨)、
本書は『ちゃんと教養のある人間がバカのふりをしている』感じがあります。
4.こじらせていてもよみやすい
SNSやビジネス書などでありがちな、いわゆる『意識高い系』の話がありません。
この文章を書いている時点で無職のせいなのか、僕は現在『意識の高そうなビジネス書を読めない病気』にかかっています。
しかし本書には、(ビジネス書にありがちな)『売るための変なカッコつけ』がないため、変な自意識を作動させることなく読むことが出来ます。
また、少し角度が変わりますが、世の中には『不幸自慢』とも取れる主張もありふれています。
苦労話や辛かった事を話題にしていたら、いつの間にか『前の職場で〇〇連勤した』『そんなの大した事ないよ、私は小さいころ貧乏で〇〇みたいな苦労をしたし』みたいな、謎の『不幸の自慢大会』が始まることってありませんか?
この本にはそういった『負のマウント』もありません。等身大の『生活』が描かれています。
ちょっとこじらせてしまっている(僕みたいな)人にこそおすすめです。
感想のまとめ
個人の生活の強靭さ
作家、とりわけ小説家というのは生き残るのがとても大変な職業です。
そんな中で20年間にわたって専業作家として生き残ってきた
めろん先生の『生活』が持つ『ある種のしぶとさ=強さ』が本書からは垣間見えます。
僕はこの本を読みながら、昨今のSNSについて考えていました。
ネット空間では価値の一元化が起こりがちです。
その人のキャラクターや人間性は捨象され、単純に数という情報だけがネットに残り、それによって評価される。
仕方ないと思う反面、なんか人類が進化の果てに迎えた一つのディストピアみたいで嫌です。
年収が低い人間に価値はない。
恋人がいない奴は人としての魅力もない。
顔は整っている方が人として優れている。
身長は高い方が価値がある。
仕事ができない奴は必要ない。
こういった『性質をそのままその人の人格•価値と結びつける』のような考えは年々、現実世界でも強くなっている気がします。
文脈は違いますが、本書の中でめろん先生は『数の論理』という形でこのことに少し触れています。
SNS的なものへのカウンター
しかしながら、SNSや会社から一歩出た我々のリアルな『生活』の中には、当然ダサい部分や、しょうもない部分がいっぱいあります。
めろん先生はあえてそういった部分を記すことで
『そんな価値観には簡単に取り込まれないよ』と、さりげないカウンターを食らわせているように思えます。
『年の瀬くらいマウンティングから解放されたいのにSNSでフォロワーが増えない!見えない力が働いている!』
とキレ散らかしている方や、
『パパ活アカウントやナンパ師がまた非モテや貧乏人を煽ってる!ただでさえクリスマスが近くて苦しいのに、こんなことはやめるんだ!』
と憤っている方は、ぜひこの本を読んでみてください。
きっと、視野がふっと広くなる感覚が味わえるとおもいます。
年末年始のお供にぜひ!
…ちなみに先ほど挙げた「SNS云々」や「パパ活云々」の例は僕のことではありません。
断じて僕のことではありませんので、よろしくお願いします。
コメント